娘の仇を討つ、父の親心「御宿かわせみ 秘曲」

本作は、御宿かわせみシリーズの十八冊目です。平岩弓枝先生著。

主人公の重大な秘密が明かされる、表題作も良いのですが……。

個人的に印象に残ったのは、収録作の中の「松風の唄」でした。

時は幕末。

主人公の東吾が、通い始めた射撃の訓練場で出会ったのは、足の悪い初老の武士・川上武八。

見事な銃の腕を持ちながら、家を残すことにこだわらず、家族がいない彼のことが気にかかる主人公。

東吾と親戚の幼女が、仲良く剣術ごっこをする姿を見て、涙を浮かべたのは、なぜ?

やがて東吾は、武八の境遇を知ります。

妻を亡くしたものの、かつては一人娘と仲良く暮らしていた武八。

貧しいながら、幸せな生活を送っていました。ところが彼が足を怪我し、娘は家計を助ける為、裕福な商家に働きに出ます。

その家の息子が、彼女を手込めにしようとし、抵抗されて殺してしまった……。

裁きの場で、医師が息子の精神疾患を理由に減罰を望み、両親が金をばら蒔いて、犯人は死刑になりませんでした。

なんだか、現代にも通じるような話です。武八は愛娘の仇を討ちたい一心で、射撃の腕を磨いてきたのです。彼に罪を犯させたくない東吾は、復讐を止めようとしますが……。

ラスト、追い詰められて海へ飛び込んだ犯人と、それを見ながら交わす、東吾と武八の会話が印象的でした。娘を想う親心が切なく、深く沁みる短編です。