本作は人気シリーズ、かわせみの九冊目です。
収録作はどれも印象的ですが、特に記憶に残るのは「黄菊白菊」。
用事があり、知り合いの住む田舎を訪れた主人公。
そこには今、江戸の大商人の孫息子が三人、滞在していました。
江戸の店が火事になり、地主の祖父の許へ滞在中だとか。
この三兄弟、三つ子じゃないのに全員十六歳ですが(ここにも曰くが……)、どうしようもない馬鹿者揃い。
田舎が珍しいのか、畑を馬で荒らす。井戸に汚物を投げる。
何より悪質なのは、三人がかりで近隣の娘達を犯すこと。
地主の祖父は、孫が可愛いのか叱れず、小作人達は奴らを、悪魔のように憎んでいました。
そんな中、馬鹿兄弟の一人が行方不明に……。
主人公の東吾と友人は、見事な菊畑を兄弟に荒らされた老人に、目をつけます。
彼が本当に許せないのは、菊畑ではなく、目の悪い孫娘を汚されたこと……。
菊づくりの鍬を振り上げた老人の怒り、悲しみが伝わってきます。
残りの二人もやがて死体で見つかりますが、村人は誰も同情しません。
東吾達は真相に気付きますが、敢えて真相は語らず……老人と孫娘が幸せに暮らせるよう、粋な計らいをするのでした。
孫可愛いさで、犯罪を止められなかった地主。結局そのせいで、孫達が命を落としたことが印象的です。