お江戸版ローマの休日?「御宿かわせみ 夜鴉おきん」

本作は、御宿かわせみシリーズの十二冊目です。平岩弓枝先生著。

素晴らしい短編が沢山収録されていますが、特に私が好きなのは、「岸和田の姫」。

殺人事件も起こらず、ほのぼのと可愛らしいお話です。

主人公の武士・東吾は、恩師の見舞いで草深い代々木野を訪れます。

その時、道端で苦しんでいる若い娘を見かけ、放っておけず恩師の家へ連れていく東吾。

酷い咳に苦しむ彼女は、まだ十代前半ぐらい。

着ている物は立派だし、町娘とは思えない品の良さ。

そして守り袋には、大名家の家紋が……。彼女は、外を見たくて抜け出した、大名のお姫様だったのです。生まれつき病弱で、喘息に悩まされてきた花姫。外出の機会もなく、淋しい思いをしてきました。それが縁で姫になつかれた東吾は、大名家の家老に頼まれ、江戸見物をしたいという、姫の願いを叶える手伝いをすることに。

もうすぐ嫁ぐ彼女に、一生の思い出を作ってあげたいと奔走します。

役人の兄や友人の協力を得て、町娘の格好をした花姫を、江戸へ案内する東吾と友人。

神社にお参りし、獅子舞を見物。蕎麦をモリモリ平らげ、船から桜並木を見る花姫は、何を見ても楽しそうです。帰りの駕篭の中で、花姫が涙を堪えて吹いたのは、東吾に買ってもらった鳩笛でした。遠方に嫁げば、もう二度と東吾に会えない……。

切なさと可愛いらしさがある、素敵なお話です。