古典の怪談話に溢れるエロス「逢魔」 唯川恵

唯川恵氏は男女の情愛と、嫉妬・妬みなど人に知られたくない女の負の感情を鮮やかに描く恋愛小説の第一人者で、女性ファンの多い作家です。

「逢魔」では彼女の筆によって鮮やかに息を吹き返した古典の怪談話8編が納められています。

番町皿屋敷・ろくろ首・四谷怪談など、聞いた事や妖鬼の絵を見たことがあっても、その話の内容を知らない人は多いのではないでしょうか?

8編の中から、お皿を「1まい・・2まい・・」と数える有名な怪談話、番町皿屋敷を題材にした「蠱惑する指」を紹介します。

江戸五番町にある火付盗賊改、青山主膳の屋敷に、17歳になったばかりの下級武士の娘である加代は行儀見習いに上がります。

暫くすると当然のように好色な主膳の寝所に呼ばれるようになり、加代は思いやりのかけらもない交合に耐えるしかない毎日です。

加代には身の周りの世話をする14才の菊という下女がいましたが、ある時主膳が菊を犯そうとしているところを見てしまいます。

加代は体を張って菊を守り、その夜から哀れな妹を慰めるような気持ちで菊を床で優しく抱いてやります・・・

しかしそれが加代と菊との交わりになるのに時間はかかりませんでした。主膳の目を盗み、次第に狂おしいほどの快感に満たされる夜を過ごしていた2人でしたが、ある時蔵の整理をしていて家宝である10枚揃いの皿の1枚を割ってしまいます。

いつも加代を憎々しく思っていた主膳の妻は加代に罪の償いを厳しく求めますが、加代が可愛い主膳は菊の落ち度として指を切り落としてしまいます。

菊はその後も加代を守るため妻からの折檻に耐え続け、最後に井戸に身を投げてしまうのです。

それから主膳の屋敷の井戸には怨霊となった菊が現れて「1枚・・2枚・・あぁ1枚足りない・・」と皿を数えるようなったということです。。

番町皿屋敷に女同士の情愛が絡んでいたなんて驚きではありませんか?

そして17歳と14歳、なんて若いんでしょう。加代が菊のたおやかで繊細に動く指に溺れていく様が何ともエロチックで、まさにオトナが読む怪談。

他の7編も、それぞれに愛しい男を離したくない女の恐ろしいまでの執念が描かれています。

因みにこの話には続きがあり、その後加代は主膳の子を身ごもるのですが、生まれてきた女の子に指はなかったのでした。