明治のかわせみ、四冊目です。
千春のお婿さんが登場する巻ですが、私のイチオシは「姥捨て山幻想」。
かわせみに、信州の山奥から東京見物の一行が宿泊します。
女中のお晴は、その中の小柄な老婆が、少し気にかかります。
決して貧しくないのに、他の人のように大量の土産物を買っていない。彼女が買い求めたのは、四つの犬張子だけ。
村に、帰りを待つ子や孫はいないのだろうか?と案じますが……。
そこにやってきたのは、医師である麻太郎。
年をとった彼女を案じて、道中の薬などを贈りますが、なぜか老婆は反発して……。
麻太郎は翌日、老婆の境遇を知ります。
四人の子供がいたけれど、全員、事故や事件で命を落としたこと。
「将来、おっかあを連れて江戸見物へ行く」
と言っていた子供達の言葉を胸に、東京見物に来たこと。
子供達と一緒のつもりで、観光していること。
偶然その言葉を聞いたのは、遊びに来ていた友人の凛太郎。
麻太郎と凛太郎は、老婆の為に、ある計画を立てます。
信州へ帰る日、出発したばかりの老婆に声をかけ、彼女をしっかりおんぶします。
そのまま歩き出す麻太郎、荷物を持ってあげる凛太郎。
亡くなった息子達の代わりに、老婆をおぶって歩くつもりなのです。もちろん、老婆の連れには許可をとっています。
交代でおんぶし、喉自慢の凛太郎は、歌声を披露。あたりの建物の説明をしたり、老婆を喜ばせます。
橋の手前で、笑顔で手を振り、別れた老婆。
不幸に負けず生きてきたお年寄りに、ひとときの楽しい思い出を作ってあげられたなら良いな、と感じました。