御宿かわせみシリーズの、二十七冊目です。
「烏頭坂今昔」が、特に好き。
かわせみの番頭、嘉助が贔屓する煙管修理の職人。
穏やかな人柄で、腕も確か。主人公の東吾は、彼に好感を持ちますが……。
そんなある日、犯罪者が島抜けをしたという知らせが。
彼らが捕まったのは、密告した者がいたせい。
復讐に現れる可能性があり、密告者の男に忠告しますが、あまり心がけの良くない男のようで……。
そして雨の中、密告者が誰かに刺殺されます。
犯人は島抜けした連中かと思いきや、あの煙管職人の老人が浮上して……。
東吾と役人の源三郎は、彼が住む烏頭坂を訪ねます。
彼は何十年も前に、密告者のせいで、一人娘を失っていました。
娘を駆け落ちに誘った挙げ句、面倒になり、すっぽかして去った男。
彼を待っていた娘は、鉄砲水に巻き込まれて死んだ……。
娘の仇を討ちたい一心で江戸へ出て、職人をしながら仇を探し続けた老人。
良い人と再縁し、可愛い子や孫に囲まれる今も、仇への憎しみは消えませんでした。
そして奇しくも、故郷と同じ地名の烏頭坂で、仇を見つけた老人。
捕まっても良いが、家族に迷惑をかけたくないという彼に、東吾達は粋な返答を返します。
彼が残された人生を、孫達に囲まれて穏やかに暮らせるよう願っています。